2020年12月10日
漫画家
放課後さいころ倶楽部
『殺人事件』
物騒な響きだ。問答無用の凶悪犯罪。
できることなら生涯遭遇したくないというのは、人類共通の願いであろう。
しかし、その殺人犯が自分と同じ部屋の中にいる誰かなのだとすれば、話は変わってくる。
誰が、なぜ、どうやって・・・その『殺人』を実行したのか?
その『謎』を解き明かさぬまま、その場を去ることのできる人が、果たしているだろうか?
推理小説の登場人物になりきってミステリの世界を楽しむ夢の遊戯が大陸から渡来するという。
その名もずばり『マーダーミステリー』。
僕が初めてその遊びに触れたのは、ご存知『ディアシュピール』。
『王府百年』のテストプレイに招待していただいて遊んだのがそれだ。
謎を華麗に解き明かし犯人を指さして、『犯人は〇〇さん、あなたです!』
高らかにその名を宣言する。
ミステリが大好物の僕は、そんな長年の夢を叶えるべく名探偵気分で鼻息荒く初のマーダーミステリー『王府百年」に挑んだのだったが・・・
結果は惨敗。
次々に現れる怪しげなアイテムと、プレイヤーたちの不審な言動に惑わされたまま、結局タイムアップまで手がかりすら掴めず、犯人に逃げ切られてしまった。
この『王府百年』、プレイヤー達が個々に入手した情報を共有しなければ犯人に辿り着くことはできない仕組みになっている。
しかしキャラクター達はみな脛に傷があり、なかなか全ての真実を明らかに
しようとしない。その皆の保身が、結果的に犯人を隠す煙幕となっているのだ。
孤独な戦いを強いられる犯人役のプレイヤーに恩恵を与えるこの仕組みは実に巧みで、それ以降国内で生み出される多くのシナリオの基礎となっていくのだが・・・
何はともあれ、こうして初プレイを終えた僕は、自分の探偵力の低さに落胆しつつも、同時にこの中国からやってきた新しい遊びが持つポテンシャルに純粋にワクワクしたのを今でもはっきり覚えている。
聞くところによると、本場中国では遊び尽くせないほどのシナリオが存在し、テレビで芸能人達が豪華セットでプレイする様子が放送されているという。
ミステリ好きの日本人のことだ。きっとこれから国内でもどんどんシナリオが産み出されるに違いない。
今まで知らなかった新しい「楽しい」が上陸した瞬間に立ち会えたワクワク。
そしてこれから出会うことになるであろう、まだ知らぬ「楽しい」を想うワクワク。
この時感じたワクワクはずっと僕の頭の片隅を占拠していて、ついには自分で書いたオリジナルのシナリオを拙著「放課後さいころ倶楽部」のキャラクター達に遊ばせるまでに至るのであった。
あれから2年ー
マーダーミスリーを遊べる場所もシナリオもずいぶん増えてきた。
少人数、短時間で遊べるものやGM不要のシナリオも現れ、遊ぶための敷居はかなり低くなったと言えるだろう。
しかし、日本におけるマーダーミステリーはいまだ黎明期にある。
この素晴らしい遊戯が少しずつカタチを変えながらこの国に根付き、真価を発揮するのはまだまだこれからである。
もっともっと多くの人が、そして僕自身が末永くこの「楽しい」を享受するためにも、数多の名作が生み出される未来を祈りつつ・・・
2020 12 10
中道裕大(漫画家)