マーダーミステリーの世界へようこそ

マーダーミステリーの世界へようこそ

安田均

安田均

2020年12月6日

グループSNE代表

マーダーミステリーと
その源流(パート2)

実際にゲームは次々出ていても、定義はもちろん、まだまだ「こういうものだ」が、よくわかっていない発展途上のゲームジャンル「マーダーミステリー」。

ぼくもゲーム研究家として、その起源について「マーダーミステリーコンベンション記念誌Vol.01」にちらと書かせてもらったが、もっと続きをという声を数名からいただいたので、その後わかったことを少し。

誰がロジャー・エリントンを殺したか?

まず、念願の『誰がロジャー・エリントンを殺したか?』Who Killed Roger Ellington(1982)を手に入れた!

それって何、という人に事情を説明しよう。

そもそもマーダー・ミステリーらしきものを意識したのは、1986年ごろ。『ボード・ゲーム』(筑摩書房、1983年)で名高い松田道弘さんが神戸に住んでおられ、お仕事場に伺ったときだ。『コーヒーハウス・マーダー』The Coffeehouse Murderのことを聞き、実物としては『墓からの挨拶』Greeting from Gravesを見せていただいた。

へえ、こんなものもあるんだと感心しつつ(ボードゲーム自体はラベンスバーガー社のものを中心に遊んでいた。だから、そちらの『オリエント急行の殺人』などはすでに知っていた)「これもロールプレイング・ゲームじゃないんですか?」と問いたげな松田さんに、「いま流行しつつある(ファンタジーの)RPGとはちがいますね」と答えたのを覚えている。

それから35年近くが過ぎたのも感慨ぶかいが、むしろぼくには松田さんがその後出版された『遊びの世界の味覚地図(文庫版:ベストゲーム・カタログ)』(社会思想社、1988年)収録の‘ミステリ・ロール・プレイングゲーム「コーヒーハウス・マーダー」’の章が印象に残った。ここでは探偵ゲームという括りで、密室殺人を扱ったRPG(ロールプレイング・ゲーム)の『コーヒーハウス・マーダー』が詳しく紹介されている。

これを見ると、現在のマーダーミステリーを簡単にしたようなシステムで、似たような事件が展開されていく。まさに今のマーダーミステリの‘原型’といった感じだ。結構分量があるので、その紹介自体は載せられないが、興味ある人はぜひ『遊びの世界の味覚地図(ベストゲーム・カタログ)』をご覧いただきたい。

ジェイミー・スワイズ’シリーズ

ぼくはそれに結構印象づけられたが、その際、気になったことがある。『コーヒーハウス・マーダー』は1985年刊行となっていたが、それよりも古いタイトルに1982年刊行の『誰がロジャー・エリントンを殺したか?』があるではないか。

最近のマーダー・ミステリー流行の兆しのなか、まず頭に上ったのはこの‘ジェイミー・スワイズ’シリーズの諸作品、中でも刊行年が一番古いこの‘ロジャー・エリントン’が、最古のマーダーミステリー(少なくとも原型)ではないのかという推測だった。

なら決まった、これを取り寄せて遊ぶのだ。

いまの時代は便利なもので、ちょっと探すと古ゲームとして見つかる。

当時よく売れたのか、1982年版と1985年版がある。両方が届いてみたら、理由がわかった。1982年版が本にも書いてあったジャストゲームズ(注意:アメリカの出版社。イギリスの有名だったゲーム店ではない)版で、後の1985年版は大手のミルトン・ブラッドレー社から出ており、しかも合計8点もカタログには載っている。

そして、内容はマーダーミステリーらしいルールブックと各プレイヤーへの招待状や、2つ折りのキャラクター説明書、封をされた解決紙。それ以外に、なんとカセットが。
カセットだよ、CDでなく。時代を感じるなあ。

ゲームシステムは大雑把

そして、一番古い1982年版を開けると、もっと驚くべきものが。

カセットはない。その代わり、黒くて薄っぺらい、これは……

何と「ソノシート」(薄いプラスティックのレコード盤)!

興味津々でゲームを解読してみた。2つの版はほぼ同一。設定は、『コーヒーハウス・マーダー』よりもう少し本格的。マサチューセッツ州の小さい町の実業家ロジャー・エリントンには後ろぐらいところがある。彼が町のレストラン‘エスカルゴ’で、やはり問題ありそうな男やレストランの店主と食事中に毒殺された。南米の猛毒クラーレが混入されていたのだ。

近くにいたのは、レストランの給仕係に店を取り仕切っている女性マネージャー。他にはロジャーの愛人や売れないコーラスガール、ヨーロッパから帰ってきた復員軍人、そしてミステリーではお決まりのロジャーのぐうたらな義理の甥。

彼らもそれぞれに秘密を持っており、今回の事件の犯人とは別にそれらが絡み合う。この辺りは最近のマーダーミステリーと似ているといってよいだろう。

ただ、ゲームシステムは大雑把。それぞれの人物には、さっきの設定の他に、手がかりが3つずつ付いている。これらを1ステージずつ会話しながら全員が露わにしていき、3ステージが終わったところで、真犯人は誰でしょうを推定する。投票などはない。

個別の設定はあっても、それを暴けたか、防いだかの得点はなく、全体が真犯人特定のための協力ゲームにすっきりなっている。途中に出て来るレッドヘリング(ニセ手がかり)に振り回されながら、最後に‘ああ、そうだったのか’を楽しむタイプと言えるだろう。

なら、仰々しく付属していたソノシートやカセットテープは何なのか。実際に聞いてみた。

前提の殺人まではすでに説明されている。テープでは、ここに警察がやってきて、それらしい現場検証をしながら、全員に事情を聞いたりしている。そしてラチが開かないので、期日までに犯人は自首するか、おまえたちで探し出せ、でないとろくなことにならんぞという警察にあるまじきセリフでゲームスタート!(笑)

それらしい雰囲気を盛り上げるための寸劇ということだった。まあ、こうしたフレーバーはマーダーミステリーには必要だろう。

「ハグル」が見事に形を変えて取り込まれた

こう考えると、この時代に結構盛り上がったマーダーミステリーというか、ミステリー・パーティは、まさに今のものの源流だというのがわかる。『王府百年』以来見てきた、手がかりカードを得て、それを密談しながら交換して、それぞれの個人得点を気にしながら、真犯人を暴くのにも注力するほど複雑化していない。明らかにここからゲームシステムが新たに注入され進化している。ぼくはこの部分、シド・サクソンの情報交換ゲーム「ハグル」が見事に形を変えて取り込まれたと考えるのだが、どうだろう。

一方、英米ではこの源流タイプが、以後もパーティ形式を整えて現われる。その辺りはどうなったのか。今後、そちらの作品もグループSNEで翻訳紹介できると思うので、またどこかで書かせてもらうかもしれない。では、今回の中間報告はこの辺りで。

 メリークリスマス!

追記:
実はこうまで必死に第1作として探した『誰がロジャー・エリントンを殺したか?』だが、シリアルナンバーが#8302となっていた。2だって? ということは、と思ってルールブック裏を見ると、カタログになっていて『コーヒーハウス・マーダー』がトップに載っている。なんだ、こちらも1982年に出てるじゃないか。しかも、そちらの主人公はジェイミー・スワイズをもじったジェレミー・スエイン。これで結局、『コーヒーハウス・マーダー』がこの時代に現われたマーダーミステリーパーティーの第1作。回りまわって確証がとれたが、ちょっと疲れた(笑)。

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