マーダーミステリー

加東岳史

劇団GAIA_crew代表
脚本家/演出家/作家/役者
エンタメ特化サイト「SPICE」
アニメ・ゲームジャンル編集長
「六花が空を覆うとき」原案協力

私的「劇作家から見た
マーダーミステリー」

劇団GAIA_crew代表 加東でございます。
今回マーダーミステリーについて語れ、との事なのでさらっとお目汚しを。

元々自劇団GAIA_crewは自分の影響もあるのでしょうが、ボードゲーム好きが多く、ボードゲームをユーザーさんと共に遊ぶイベントなども開催しています。

そういうご縁で、ディアシュピールの川口代表には公演のスポンサードをして頂いたり、懇意にさせていただいておりますが、そんな川口さんから「是非プレイして下さい!」と強くプッシュされたのが『王府百年』でした。

元々リアル脱出ゲームなども遊びますが、正直そんなに得意ではないんです。でもマーダーミステリーはひらめきと瞬発力だけではなく、会話の中で真偽を探り、徐々に見えてくる物語の骨格、そして真相。TRPGに謎解きを加えたような知的ゲームは衝撃的に面白く、ゲーム終了後の感想戦も非常に盛り上がりました。

オリジナルのマーダーミステリーを作りたい

「これはすごいね!」そんな話をしていると、川口さんから「オリジナルのマーダーミステリーを作りたい」という話が出ました。そこで一緒に考えたのが『六花が空を覆うとき』という作品です。

この作品で僕はシナリオの原案を担当させていただきましたが、コンセプトは「ベーシックかつ、最後にちょっと泣けるような作品にしよう」というものでした。ベーシックなものを作るとしたら、まず密室状態を作るしか無い。密室のベーシックといえば雪山という話になり、そこから話を広げました。

勿論まだ「六花が空を覆うとき」をプレイされていない方もいるかも知れませんので、これ以上は語りませんが、ストーリーのベースを作成したのちに全て川口さんにおまかせしたのは、僕が劇作家だからです。

僕は原案の段階でこういうふうにキャラが動いて、こうなって、最後こういう展開になる。というのをどうしても考えてしまいます。劇作家は物語を紡ぐのが仕事なので、仕方ないことなのだと思うのです。それが劇作家として、作品に対して最後まで責任を持つということだと思っています。物語は始めたら終わらせないとならないのですから。

この場合、最後まで責任を持つということはそこで起こった事件が終わり、なぜそうなったか、なぜそうしたのか、どうしてそうしたかったのかを開示し、舞台が暗転して物語が終わる・・・という所まで登場人物全てをそこに存在させ続けることです。

ドラマとは、登場人物が何かを成し遂げようとすることに対して障害があり、それを乗り越えようとする時に生まれます。犯人は殺人を犯してしまったが、なんとかそれを隠蔽したい。そのために必死に努力するという行動そのものが犯人目線としてのドラマです。

マーダーミステリーは絶対的に「ゲームであるべきだ」

ここで原点に立ち返って言っておかなければならないこととして、僕はマーダーミステリーは絶対的に「ゲームであるべきだ」と思っています。

TRPGなどもそうですが、ただ与えられた物語を見るのであれば、それは演劇や映画と同じです。自分が出演者として体験する”だけ”なら、これはアトラクションです。しかしTRPGもマーダーミステリーも、自分の思考で行動を決断し、予想も起きないことが起きてもクリアに向けて乗り越えていく。これはアトラクションではなく「ゲーム」です。

僕はボードゲームが大好きで、大好きだからこそゲームを作る才能は無いというのも痛感しています。ゲーム的な面白さのアイデアを生み出す能力は決定的に欠如しています。だからこそボードゲームをやっても製作者目線ではなく、ただのファンとして楽しむことが出来るのです。いろいろな面白いゲームをプレイして「いやぁこれ面白いなぁ!」と一人唸ったことは一度や二度ではありません。

これが舞台となるとそうは行きません。勿論何もかも忘れて夢中になれる作品というものもありますが、基本的に舞台を見ていると「なるほどここはこうするのか」「ここは僕ならこうするけどなぁ」「こういう展開は面白いから覚えておいて、自分の作品に反映してみようか」など考えてしまいます。

物語を作るのであれば、そのキャラが何をしたくて、そのために乗り越えるべき障害も、どう乗り越えるかも僕が考えて作ります。しかしゲームである以上、製作者が作るべきは設定と、キャラと、作品世界の枠と、乗り越えるべき障害です。その乗り越え方はプレイヤーが試行錯誤して考えるものなのです。

僕は自分の作った枠組みを「ゲーム」として完成させる自信はありません。ゲームに精通している川口さんが作り上げてくれたからこそ『六花が空を覆うとき』は面白いものになったのだと思っています。

ブーム(と言っていいのかわからないのですが)マーダーミステリーは各界隈で話題になり、作品も沢山生まれています。公演として上演しているものも多く、多様性が世界をどんどん広げていってくれるのでしょう。

ですが、僕が体験させてもらったマーダーミステリーで面白いと思ったのは「ゲーム性」が高いものでした。マーダーミステリーは物語性とゲーム性が奇跡的なアイデアで融合した新しく刺激的な遊戯です。ゲームシステムを作るだけでは物語の面白さは生まれず、物語にだけ注視したらゲーム的なプレイの面白さは生まれません。そういう意味では正にビデオゲームのRPGを作る作業ににているのかもしれません。

僕ら「物語を始めて終わらせる専門家」

これからも様々なアイデアやストーリーのマーダーミステリーが生まれるでしょう。個人的にはゲーム性の高いものが生まれてくれたら嬉しいと思っています。盤石のゲーム性の作品が生まれるとき、そこに僕ら「物語を始めて終わらせる専門家」である劇作家もジョインしていれば、ひょっとしたら歴史的な作品が生まれる・・・かも?しれません(笑)。

2020年ほど人生で家の中に居続けた一年もなかったような気がします。きっと来年は明るいはず、その時にまたみなさんとボードゲームやマーダーミステリーで同卓し、みんなで「いやあ~面白いなぁ!」と頷き合いたいと、心から願っています。

劇団GAIA_crew代表 加東岳史