マーダーミステリー

天藍蒼穹

2020年12月1日
クローズ型マーダーミステリーの伝道師​

マーダーミステリーの
系譜とギミック

クリスマスへのアドベント(到来)ということで、最初のテーマは「マーダーミステリー の系譜とギミック」についてです。それによって、今後マーダーミステリーのギミックとして使えるネタが伝われば幸いです。

 

オープン型の王府百年と、クローズ型のミスカトニック大学図書館に潜む者

 

マーダーミステリーの大枠は「殺人事件が起き、誰が犯人なのかを探す、また犯人側は隠し通す」というものです。この日本での嚆矢となった作品は、2017年ごろ中国産マーダーミステリー「王府百年」でした。

 

一方、私が友人達向けにイギリス産「銀の弾丸事件」を翻訳していたものの、そのゲーム形式はかなりかけ離れており、中国では王府百年は「オープン型」、銀の弾丸事件は「クローズ型」と呼ばれていることが分かりました。続けて翻訳を行った「ミスカトニック大学図書館に潜む者」は、銀の弾丸事件と同じくクローズ型とされていましたが、特に好評となりました。

 

この頃、王府百年や約束の場所などの初期のマーダーミステリーから独自に「誰が勇者を殺したか」、少し遅れて「トランプの国のクーデター」が発表されています。

その後、「ヤノハのフタリ」は、システム面に王府百年、純白の悪意からの影響があるということです。そして「双子島神楽歌」では、プロデュースした酒井りゅうのすけさんによると「その当時発表されていた作品は全て遊んで、オープン型とクローズ型の特徴を組み合わせた」とのことです。

 

マーダーミステリーのオープン型とクローズ型とは

 

マーダーミステリーの起源は、安田均さんによると「1930年代には源流となるミステリー作品(『アレン警部登場』)があった」ということですが、作品としてはっきり残っているのは1983~1985年にいくつか発表されている作品群です。その一つとして、アメリカ、Decipher社のウォーターダウン事件(The Watersdown Affair)をあげるのも悪くはないでしょう。このマーダーミステリーは、コースディナーを食べながら殺人犯を探すというもので、脚本型と分類されています。一方、アメリカではインタラクティブ型と呼ばれる分類のゲームも存在します。その最も顕著な例はAsmodee社によるDeathWearsWhite(邦題 死神は白衣をまとう)ではないでしょうか。結局、欧米では、脚本型とインタラクティブ型という言い方をしており、オープン型やクローズ型という言葉はありませんでした。

 

そもそもこの二つのタイプが生まれたのは、自宅で催すパーティの一つとして作られたマーダーミステリーがパーティ形式に即して作られているからと考えられます。

 

A 着座式のパーティを想定している場合

  ・密談は原則なし

  ・読み合わせが多い

  ・食事のコースが進むにつれて新しい情報が展開(アクト進行)

  ・テーブルの上は食事があるので、手元資料のみで進行

 

B 立食式のパーティを想定している場合

  ・立ち歩けるので密談を採用しやすい

  ・机は複数作れるので、アクションチップと情報カードを配置

  ・アクションチップを補給したり、情報カードを新たに設定することで新情報を展開

  ・全体議論と密談とを組み合わせて犯人を割り出す

 

といった特徴がでてくるというわけです。

 

こうした特徴を、改めてオープン型、クローズ型という形でまとめると、

 

オープン型

 アクションチップあり

 情報カードあり

 密談あり

 最初に自分に関する全ての情報が開示される

 

クローズ型

 アクションチップなし

 情報カードなし

 密談なし

 アクト進行にしたがって自分に関する情報が順次開示される

 

という形に収斂していきます。

 

ところが、双子島神楽歌ではこの両者をうまくとりいれた造りをしているため、これを基準に作成されたものには多かれ少なかれ、どちらの特徴も入っていくことになったと感じています。ギミックがネタバレになってしまうこともあり、はっきりとは言えませんが、「アクト進行にしたがって自分に関する情報が順次開示される」という仕組みは、物語に大きな変化をもたらす素晴らしいギミックとして使われているのです。

少なくともこの仕組みをうまく使って、中盤でダレがちな展開を大きく進展させることに成功しているマーダーミステリーは数多くあります。

自分に関する情報が大きく変わったりするアレですよ!

 

いずれにしても、現状90%以上のマーダーミステリーはアクションチップ・情報カード・密談という形式が「お決まり」になっているといっていいでしょう。一方、「銀の弾丸事件」「ミスカトニック大学図書館に潜む者」から新しいマーダーミステリーを発想したというゲームもいくつか存在しています。最も早くに制作されていた順にいうと、「メゾントキワの消えたプリン」「同胞による陪審」「正義はまた甦る」「ブラックナイトスレイブ」「古鐘の鳴る頃に」という作品は、制作者達からクローズ型の面白さを工夫して作ったと聞いています(メゾントキワの消えたプリンだけは超例外)。「死に至る名声」は、ドイツ発のマーダーミステリーですが、コースディナー、衣装、招待状という文化を色濃く残すもので、クローズ型の特徴を色濃く受け継いでいるといえるでしょう。



嘘と必然性と

 

 オープン型の嘘と、クローズ型の嘘は性質が大きく違います。

 オープン型の嘘というのは、情報カードが真実であれば、キャラクターからは嘘をついても検証可能という点にあります。ただし、情報カードが公開されないことがあるなど、検証ができない、特に犯人が決定的なカードを握って非公開になってしまうと、検証不能の嘘が成立する可能性がでてきてしまいます。自分も何度かはこうした経験がありますが、推理の公平性からは一歩遠のいてしまう気もしています。

 一方、クローズ型では情報カードで真実が保証されていないので、外部からの証拠が真実を保証する形で出てくることがあります。また、それぞれの証言の中で嘘ばかりついてしまうとゲームとして成立しにくくなってしまうため、キャラクターの証言で「嘘をついてはいけないこと」が設定されることがあります。ただし証言ですから、本当にそうなのかどうかは各自判断ということになるでしょうか。

 嘘をついてはいけないとなると、個人目標の達成は難しい、などという話があったのは、そもそも情報カードがなく「嘘をついてしまうと真実を担保することができない」というジレンマの中から生まれていたということになります。

 嘘がある、ないの必然性というのは、ここから生まれてきています。

 

・オープン型の嘘

 真実(情報カード)があるから嘘をついてもらってもOK。自由度は高まるが犯人による隠匿も起こりうる。

 

・クローズ型の嘘

 嘘をつけない設定がないと、多くの情報や証言に信頼性がなくなる。ただし、プレイヤーの自由度が失われ、嘘と真実の判断がつきにくい。

 

型と型ハズレ

 

 本当は、型なんてどうでもいいのです。

 その型に至った必然性や、その型のギミックをとりいれた理由や工夫の理由が考えられていることが大事なのです。マーダーミステリーとはこういうものだ、と真似をしていく中には、まずは真似が必要だと思います。だからまずは仕組みを取り入れて作ってみるのが良いと思うのです。次の段階で慣れてきて、型からはみ出すとき、その型の意味を考え直すタイミングが来ると思うのです。王府百年やミスカトニック大学図書館に潜む者より、もっと洗練された形でできているものもありますし、単純に模倣したために綻びが出て、なぜこの仕組みをそのままとりいれてしまったのだ、というものもあるとききます。

 例えばアクションチップなしでマーダーミステリー考えてみて、といったらどんなものができるでしょうか?そういった中では、パリのカジノに魅せられてCompleteMurderMysteryなどの海外作品(それぞれ翻訳版を作っている人がいます)は、新しい風になっているのではないかと思います。多分、参加した人の中から新しい作品が出てきてもおかしくない。

 

 今までクローズ型って何?という話を避けて来たのは、今はそこにあまり差はなく、ギミックとして取り入れるかどうかという程度になってきているという部分が大きいからですが、そのギミックとは何なの、というのをまとめておくのも良いかと思い機会をいただくことにしました。